トゥルシーには水銀が含まれる?というお話
時々、「トゥルシーには水銀が含まれるのですか?」というご質問をいただくことがあります。インターネット上で検索してみると、トゥルシーが、水銀汚染や放射能(放射線治療を含む)による損傷から身体を保護する作用がある…という記述が多くありますが、水銀が含まれているという具体的な話は見つけることができませんでした。
では、なぜ そんな話があるのでしょう?
トゥルシー(ホーリーバジル / Ocimum sanctum L.)と水銀の関係について、「伝統的記述の誤解」と「科学的・環境的な視点」の2点から整理しました。
1. 「トゥルシーに水銀が含まれる」とされる背景
書籍『アーユルヴェーダのハーブ医学』にある「(トゥルシーは)天然の水銀を含み…」という記述が誤解の元になったと考えられます。
アーユルヴェーダの伝統分野「ラサシャーストラ」における「ラサ(水銀)」は、単なる金属元素としての水銀だけでなく、自然界や大地の「エッセンス」「精髄」を指す場合があります。
ですので、この記述は現代化学の意味での元素分析ではなく、自然界のエッセンスを宿しているという伝統的な表現・世界観と解釈するのが自然です。霊的な植物でもあるトゥルシーには、このような精妙な力があるという話から、このような記述がなされ、それが部分的な表記で、インターネット上に書かれていたりしているので、ご心配をおかけしてしまったのではないかと推察いたします。
2. 現代科学・環境からの視点
では、実際に水銀の含まれる可能性はないのでしょうか?現時点で私が確認できた研究の範囲では、トゥルシーが、他の一般的な植物に比べて水銀を特に強く吸収・蓄積する「水銀ハイパーアキュムレーター」であることを示す研究は見つかりませんでした。
しかし、実際の検査結果ではトゥルシーの葉から水銀が検出されたという事例報告は存在します。米国FDAも、アーユルヴェーダ製品について鉛・水銀・ヒ素などの重金属が問題になるケースを報告しています。しかしFDA自身も、汚染として存在する場合と、伝統的な処方の成分として含まれる場合の両方を指摘しています。
このことから言えるのは、トゥルシーに限らずすべてのハーブがそうかもしれませんが、重金属を含む大気汚染や土壌汚染の少ない環境でそだったものが好ましいということだけです。東南アジアは素晴らしい薬草の宝庫ですが、実際に歩いてみると急激な近代化によって、環境インフラが整っておらず、土壌汚染や大気の汚染レベルは深刻といわざるを得ません。
水銀の形態と蓄積
自然界には水銀がたくさん存在しますが、金属水銀・無機水銀・有機水銀(メチル水銀)の三種類の形で存在しています。
このうち、気化した形での金属水銀・そして有機水銀が毒性が強く、問題になります。
無機水銀は、通常、体内に取り込んでもほとんどの場合、そのまま排出されてしまうので、問題になることはあまりありません。DFAが指摘した「伝統的な処方の成分」とは、まさに硫黄と水銀を錬成・焼成して、他の金属の変換を助ける物質にしたものです。
一般に問題とされるのは大型魚類に生体濃縮されるメチル水銀です。厚生労働省などでも、妊娠の可能性のある方への注意喚起として取り上げているのはカジキやマグロなどの大型魚や、キンキなどの深海の魚になっています。
植物も土壌や大気からごく微量の元素を取り込む可能性はありますが水銀の形態が異なるので、魚類のような生体濃縮と同等に扱うことはできません。
3. 当農園(石垣島)の状況と結論
沖縄県石垣島の当農園周辺には大規模な工業施設などの汚染源がないため、水銀汚染のリスクは少ない環境と考えられます。
【結論】
トゥルシーから水銀がみつかったとする報告事例はありますが、トゥルシーには他の植物に比べて水銀を蓄積するという調査結果もまた見つかっていません。
伝統文献にある表現は現代化学の元素ではなく概念的な比喩と捉えるのが妥当ですが、自然界に絶対はないですから、きれいな環境で育てたものを安心して取り入れたいものです。